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「学び直しが大切」と聞く機会は増えました。それでも、仕事や家事の後に講座を受けたり、資格の勉強を続けたりするのは簡単ではありません。
続かない理由を「本人のやる気」で説明しきれるのでしょうか。日本と海外の公的統計を読むと、働き方、雇用形態、時間、費用、職場の評価といった学習者の外側の条件が見えてきます。
2026年7月31日公表の厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」では、自己啓発を実施した労働者は35.5%。正社員では43.3%、正社員以外では15.9%でした[1]。ただし、この数字は日本の成人全員の学習率ではありません。この記事では調査の対象と定義を確認しながら、学び直しを個人の努力だけでなく環境の問題として考えます。
結論:学び直しの壁は、意欲だけでは説明できない
学び直すかどうかを決めるのは、本人の関心だけではありません。学習時間を確保できるか、教材の費用を負担できるか、学んだ技能を仕事に使えるか、職場に理解があるかなどが関係します。
日本の自己啓発実施率には雇用形態による大きな差があります[1]。さらにOECDの成人学習調査では、参加したくてもできなかった人の主な障壁は「仕事や家庭のために時間がないこと」でした[2]。
最初に妨げになっているのは、どちらですか?
本人の意欲だけでなく、学びやすい条件も整える。
2026年公表の厚労省調査:自己啓発実施率は35.5%
厚生労働省は2026年7月31日に「令和7年度 能力開発基本調査」を公表しました。個人調査は2025年11月15日〜12月16日に実施されています[1]。
この調査では、OFF-JTを受講した労働者は37.3%、自己啓発を実施した労働者は35.5%でした。自己啓発実施率は前回より1.3ポイント低下しています。
正社員と正社員以外で大きく異なる
同じ調査の自己啓発実施率を雇用形態で見ると、正社員43.3%に対し、正社員以外は15.9%です。差は27.4ポイントになります。この差から、正社員以外の労働者の意欲が低いと結論づけることはできません。
| 指標 | 実施率 | 見るときの注意 |
|---|---|---|
| 労働者全体の自己啓発 | 35.5% | 対象事業所に属する労働者の調査 |
| 正社員 | 43.3% | 自己啓発の実施状況 |
| 正社員以外 | 15.9% | 雇用形態間の差は因果関係を示さない |
| OFF-JT受講 | 37.3% | 自己啓発とは別の指標 |
出典:厚生労働省、令和7年度能力開発基本調査[1]。小数点以下を含む数値は公表値を使用。
厚労省調査の対象は、常用労働者30人以上を雇用する企業・事業所と、その対象事業所に属する労働者です。個人調査の調査対象数は20,127人、有効回答率は43.9%。小規模企業の全労働者、自営業者、働いていない成人を含む「日本人全体」の実施率と読み替えるべきではありません[1]。
OFF-JTと自己啓発は別のもの
OFF-JTは通常、業務の通常の流れから離れて行う教育訓練を指し、自己啓発は労働者が自ら取り組む能力開発です。両者の実施率を足して「学んだ人の割合」とすることはできません。同じ人が両方に参加している可能性があるためです。
厚労省は、EUのAdult Education Surveyに近い定義を用いてOFF-JTまたは自己啓発に参加した人の割合も試算しており、その値は45.9%です。ただし、自己啓発のうち自学・自習やインターネット学習だけを行った人を一部除くなどの調整があるため、35.5%との単純比較はできません[1]。
OECD国際比較:日本では「時間がない」が特に目立つ
OECDの2025年報告『Trends in Adult Learning』は、2023年の国際成人力調査(PIAAC)のデータから成人学習への参加と障壁を分析しています[2]。
学習を希望しながら参加できなかった人のうち、仕事や家庭による時間の制約を最大の障壁として挙げた人は、参加するOECD諸国・地域の平均で48%。日本では、この理由が60%以上を占めました[2]。
重要なのは分母です。 「日本の社会人の60%以上が勉強する時間がない」という意味ではありません。OECDの集計は主に25〜65歳で、過去12か月に希望した非公式の職業関連学習へ参加できなかった人が答えた障壁の内訳を示します。
| OECD調査での主な障壁 | 参加を妨げられた人の割合(OECD平均) |
|---|---|
| 仕事・家庭による時間不足 | 48% |
| 適切な学習機会がない | 14% |
| 費用が高い | 13% |
出典:OECD(2025)、図3.7および説明文[2]。参加したいが参加できなかった成人を母集団とする回答割合であり、日本単独の数値ではありません。
時間不足は「時間管理術」だけで解消できない
通勤、シフト勤務、育児、介護などによって、自由に使える時間は変わります。「毎日1時間確保しよう」という助言が実現できる人ばかりではありません。
OECDの報告は、学習休暇、保育環境、職場と教育提供者の連携など、個人の予定表以外にも解決策があることを示唆しています[2]。学び直しへの参加を広げるには、企業や政策側が担う役割も考える必要があります。
日本のもう一つの障壁:学んでも職場で評価されない
内閣府の2025年の経済財政分析では、労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査結果が紹介されています。自己啓発を行わない理由として「仕事が忙しくて時間が取れない」32.8%、「自己啓発を行っても会社で評価されない」26.1%、「費用を負担する余裕がない」21.5%などが挙げられています[3]。
これは厚労省の2026年公表調査とは異なる調査・質問・母集団に基づく数字です。同じ年の同じ労働者の結果として直接比較できません。また複数回答の設問なので、各割合を足して100%と解釈することもできません。
「学んだ先」が見えなければ投資しづらい
学習内容が配置転換、担当業務、評価制度と無関係なら、時間と費用をかける判断は難しくなります。これは学習意欲の有無だけの問題ではありません。
例えばExcelの自動化を学ぶ人が、作った仕組みを職場で試す機会を持てなければ、学習から仕事への橋渡しが起きにくいかもしれません。学習の成果を職場で生かす条件については、BaldwinとFord(1988)の研修転移に関する古典的レビューも参照できます[4]。ただし、古典研究の整理を現代日本の労働者全員に直接一般化することはできません。
同じ学び直しでも、雇用形態と企業規模を分けて見る
学習機会の差は、一つの属性だけで説明できません。厚労省の能力開発基本調査が示す正社員と正社員以外の差に加え、JILPTの2025年公表調査は、従業員5人以上の企業やそこで働く人も対象に含め、小規模職場の実態を補います[5][6]。別の調査を混ぜて一つの参加率を算出することはできません。
正社員と正社員以外の違いを詳しく知りたい場合は、雇用形態別のOFF-JT・自己啓発・OJTの比較を参照してください。
小規模な勤務先については、労働者1万人調査に基づく企業規模別の研修受講率で、個人を分母とした結果を扱っています。
また、学習時間を企業が支える仕組みとして教育訓練休暇制度などがあります。これは労働者の「実際の受講率」ではなく、企業が制度を備えているかという別の論点です。
教育訓練休暇・短時間勤務制度の導入率も確認できます。
学び直しを妨げる3つの壁を切り分ける
ここまでの統計を、個人が取り組める小さな判断へ置き換えると次のようになります。以下は編集部による実践提案であり、各調査がその手順の効果を直接検証したわけではありません。
- 01条件を知る
時間・費用・職場での実践機会の不足を分ける。
- 02学習を小さくする
仕事に近い題材を15〜30分で一つ試す。
- 03機会を交渉する
使い道、成果物、必要な支援を具体的に伝える。
厚労省・OECDの統計を参考にしたLEARN SHIFT編集部の行動設計。効果を保証する介入プログラムではありません。
1. 時間の壁:小さく始めても、制度の確認は省かない
まず何曜日に何分を確保できそうか確認し、無理な日は休める予定にします。1週間に数回、短い学習を試す方法は一案です。しかし学習時間を増やせない原因が勤務や家庭の負担にあるなら、個人の工夫だけに責任を押しつけないことも重要です。
職場に研修時間や学習休暇、費用補助があるかを確認します。公的な支援制度は適用要件や募集状況が変わるため、制度名を見つけたら必ず最新の公式案内を確認してください。
2. 費用の壁:講座へ申し込む前に到達点を決める
講座選びは「話題だから」ではなく、「何ができるようになれば十分か」から始めます。無料の公式教材で試し、演習や評価が必要になった段階で有料の選択肢と比較しましょう。
費用だけでなく、使える期間、言語、課題、修了条件も判断材料になります。日本語で学べるオンライン講座の比較は、具体的な学習先を検討し始めた段階で参照できます。
3. 職場の壁:学習したい分野ではなく、改善できる作業を共有する
「データ分析を勉強したい」よりも「毎月の集計ミスを減らし、報告書の作成を短縮する方法を検証したい」と伝える方が、業務との関係が明確になります。
個人の能力開発が必ず昇進や賃金上昇につながるとは限りません。成果の共有先や試行できる作業について、職場と事前に相談することも選択肢です。
実践例:学び直しを最初の2週間で試す
例として、売上報告書の作成時間が負担になっている人を考えます。最初の週は自分の作業を記録し、どの集計や説明でつまずくかを分けます。2週目は架空データで集計表を一つ作り、自分の言葉で変更点を説明します。
これは学習の入り口を小さくするための編集部の例です。「2週間で必ずスキルが身につく」と保証するものではありません。必要な基礎や学習時間は分野によって異なります。
「学び直し方」をもう少し具体的に知りたいなら
学習内容が決まった後は、動画を見るだけでなく、思い出す練習と成果物づくりを組み合わせる方法があります。具体的な計画はCourseraで効率よく学ぶ方法で整理しています。サービスの利用を前提としなくても、復習や演習の考え方は参考にできます。
AIを勉強相手にする場合には、答えを読むことと知識を覚えることの違いにも注意が必要です。AIを使った学習と記憶保持の研究も合わせて確認してみてください。
まとめ:必要なのは、意欲だけではなく学べる環境
厚労省の2026年公表調査では自己啓発実施率に雇用形態による差があり、OECDの国際比較では、学習したくても参加できない人の時間不足が大きな障壁でした[1][2]。内閣府が紹介した国内調査からは、職場で評価されないことや費用負担も論点になります[3]。
それぞれ調査対象や定義が異なるため、数字を一つの順位表にまとめて原因を断定することはできません。それでも、学び直しを「やる気があるか」だけで説明しない方がよいことは、複数の資料から読み取れます。
学ぶ人は小さく始め、企業は試せる機会を作り、制度については最新情報を確認する。学び直しを現実的にするには、個人と環境の両方を見ることが欠かせません。
参考文献・出典と調査上の注意
本記事は2026年10月14日時点で閲覧できる原典を確認して編集しました。記事中の因果関係や効果を、調査で直接検証していない部分では断定していません。
- 厚生労働省(2026年7月31日公表)「令和7年度『能力開発基本調査』の結果を公表します」。調査実施時期:2025年。対象:常用労働者30人以上の事業所等。原典
- OECD (2025). Trends in Adult Learning: New Data from the 2023 Survey of Adult Skills. OECD Publishing, Paris. DOI / 参加障壁に関する第3章
- 内閣府(2025)「日本経済レポート 第2章 第2節 賃金の持続的増加に向けた課題」。JILPTの調査を引用した自己啓発未実施の理由に関する分析。原典
- Baldwin, T. T., & Ford, J. K. (1988). Transfer of training: A review and directions for future research. Personnel Psychology, 41(1), 63–105. DOI
解釈上の注意: ①厚労省の数字は全国の成人全体を母集団としない、②OECDの48%と日本の60%以上は「希望した学習に参加できなかった人」の回答割合、③内閣府引用の割合は別の調査における複数回答、④これらの記述統計のみから学習参加を妨げる因果効果は推定できない。