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同じ職場にいても、受けられる研修やスキルアップの機会は同じとは限りません。厚生労働省が2026年7月に公表した「令和7年度 能力開発基本調査」では、正社員と正社員以外の労働者のあいだで、自己啓発や職場の教育訓練への参加状況に大きな差がみられました[1]。
ただし、調査で確認できるのは参加状況の差です。「正社員以外の人は意欲が低い」「雇用形態だけが学習格差の原因だ」とは言えません。仕事の内容や勤続期間、企業の研修対象、利用可能な時間など、複数の条件が関わる可能性があります。
この記事では最新の国内調査とOECDの日本向け分析を読み比べ、学び直しの機会を考える判断材料を整理します。
結論:自己啓発だけでなく、職場内の訓練機会にも差がある
令和7年度能力開発基本調査によると、自己啓発の実施率は正社員43.3%、正社員以外15.9%でした。OFF-JT受講率は正社員44.5%、正社員以外19.4%。どちらの指標にも差があります[1]。
今、困っているのはどちらですか?
学ぶ意欲だけでなく、参加できる条件があるかを確認する。
数字を図で比較する
下の比較図は公的機関が公開した数値を基に編集部が作成しました。対象と分母を確認して読み取ってください。
自己啓発の実施
OFF-JTの受講
出典:厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」(2026年7月公表)
各雇用形態に属する労働者を分母とした個人調査。事業所単位のOJT実施率と同じ分母ではありません。割合の差から因果関係は断定できません。
2026年公表の国内調査で見る4つの指標
厚生労働省の「令和7年度 能力開発基本調査」は、2025年秋に調査し、2026年7月31日に結果を公表しました。企業調査、事業所調査、個人調査の三種類から構成されています[1]。
| 指標 | 正社員 | 正社員以外 | 差 |
|---|---|---|---|
| 自己啓発の実施率(個人調査) | 43.3% | 15.9% | 27.4ポイント |
| OFF-JT受講率(個人調査) | 44.5% | 19.4% | 25.1ポイント |
| 計画的OJTの実施(事業所調査) | 60.6% | 25.1% | 35.5ポイント |
| キャリアコンサルティングの仕組みの導入(事業所調査) | 48.4% | 30.1% | 18.3ポイント |
出典:厚生労働省[1]。上二行は個人の実施・受講率、下二行は当該雇用形態の労働者を対象に実施・導入した事業所の割合であり、同一の分母として比較しないでください。「差」は各行の割合の単純な引き算です。
自己啓発の27.4ポイント差が示すこと
自己啓発は、自分の意思で行う能力開発を含みます。ただし実施するかどうかには、時間、費用、仕事での必要性、企業による支援なども関係し得ます。
したがって、実施率の低さをそのまま個人の努力不足と解釈するのは不適切です。調査だけでは、どの要因が雇用形態間の差をどれだけ生んだかという因果効果まではわかりません。
OFF-JTの25.1ポイント差が示すこと
OFF-JTは、通常の仕事の流れを離れて実施される教育訓練です。自己啓発と異なり、企業の研修方針や参加対象の設定が学習の機会に関わります。
正社員以外のOFF-JT受講率は19.4%で、正社員44.5%と差があります[1]。これは職場で提供される学びの機会について問い直す手がかりになりますが、すべての事業所が同じ研修内容を提供すべきだと統計だけから決まるわけではありません。
OJTとキャリア相談は「事業所」の割合
事業所調査では、正社員に計画的なOJTを行った事業所60.6%、正社員以外に行った事業所25.1%でした。またキャリアコンサルティングの仕組みについては、正社員向け48.4%、正社員以外向け30.1%です[1]。
これらは労働者のうち何%が受講したかではありません。 事業所が各雇用形態に対して訓練や仕組みを実施・導入したかを示す割合です。個人調査と同じグラフに並べるときは、数字の意味を必ず区別する必要があります。
OECDは日本の雇用形態による学習機会をどう見ているか
OECDの日本向け報告『Creating Responsive Adult Learning Opportunities in Japan』(2021年)は、日本では非正規雇用者が雇用主の支援を受ける研修の機会を得にくいことや、訓練へのアクセスが雇用形態によって異なることを指摘しています[2]。
この報告は2021年のもので、2026年の状況を直接測定したものではありません。しかし、2026年公表の厚労省調査で見られた差を考える際の制度的背景として役立ちます。
雇用形態だけで全体を説明しない
OECDは日本の成人学習への参加には、学歴、年齢、企業規模などによっても差があると整理しています[2]。同じ雇用形態でも、業務内容や研修機会は異なります。
最新の厚労省調査をもとに「差がある」と確認することと、「なぜ差が生じたか」を説明することは別の作業です。記事ではこの二つを混同しないようにします。
時間不足と職場の支援は、どう関係するのか
OECDの2025年報告『Trends in Adult Learning』は、成人学習を希望したのに参加できなかった人のうち、仕事や家庭による時間不足を最大の障壁として挙げた割合が、対象国・地域の平均で48%だったと報告しています[3]。
日本では時間の制約を挙げた割合が60%以上でした。これは日本の全労働者の60%以上が時間不足だという意味ではなく、希望した学習に参加できなかった回答者の中での割合です。
職場による費用負担や研修時間の確保も、参加の条件を考えるうえで重要です。OECDは、雇用主からの金銭的支援と成人学習への参加には強い関連があると指摘しています。ただし関連があることと、単独の支援策が必ず参加を増やすことは同義ではありません[3]。
研修に参加しづらい場合、何を確認できるか
次の手順は調査で示された障壁をもとにした編集部の提案です。特定の支援策の効果を検証した実験結果ではありません。
- 01仕事と目標を整理
身につけたい技能を、担当する作業に結びつける。
- 02利用条件を調べる
研修対象、時間・費用補助、公的な支援制度を確認。
- 03小さく実践する
架空の課題で成果物を作り、学びの必要性を具体的に説明。
LEARN SHIFT編集部の実践案。職場・制度によって利用できる支援は異なります。
1. 職場に確認すること
研修の参加条件は、雇用区分以外に担当業務や勤続期間で決まる場合もあります。人事・上司への相談では、受講対象、費用補助、就業時間中に受講できるか、受講後に業務で試せるかを確認すると、利用できる選択肢が見えやすくなります。
申請の条件は会社ごとに異なります。特定の制度が必ず使えるとは考えず、最新の社内案内を確認してください。
2. 職場の支援がない場合
無料の公的教材や公開講座を使って、小さな学習課題を試す方法があります。例えば表計算が必要なら、架空の表で一つの集計を再現してみます。
費用が必要な講座や公的支援制度は、対象者・学習分野・申請期限が変わることがあります。最新の公式案内を基準に比較しましょう。目的や日本語対応から教材を探す場合は日本語オンライン講座の比較が参考になります。
3. 学んだことを仕事につなげる
学んだ知識をそのまま仕事に使えるとは限りません。成果物を一つ作り、どの作業を改善したいのか、どんな条件なら使えるのかを説明すると、職場で相談しやすくなります。
具体的な演習や復習の進め方はCourseraで効率よく学ぶ方法で整理しています。これらは有料講座を受けることを前提とするものではありません。
よくある疑問
学習機会について、調査の数字だけでは判断できない疑問を整理します。
正社員以外でも研修を受けられる?
受けられるかどうかは勤務先の制度や研修の対象条件によります。調査では正社員以外でもOFF-JT受講者がいます。受講資格がないと決めつけず、勤務先へ確認しましょう。
正社員の方が自己啓発の意欲が高いの?
今回の実施率の差だけで、意欲の差を結論づけることはできません。学習の必要性、使える時間、経済的条件、仕事内容、企業の支援などの違いを考慮する必要があります。
国の学び直し支援制度は誰でも使える?
制度ごとに雇用保険の加入状況、講座の指定、申請時期などの条件が異なります。この記事では一律の利用可否を断定せず、個々の制度の最新公式要件で確認することを勧めます。
まとめ:参加率の差を、学ぶ人だけの責任にしない
厚労省の最新調査では、正社員と正社員以外の自己啓発、OFF-JT、計画的OJT、キャリア相談の体制に差がありました[1]。OECDの過去の日本向け分析や新しい国際調査も、雇用主の支援や時間的制約が成人学習と関係することを示しています[2][3]。
必要なのは、個人の学習計画だけを改善することではありません。学ぶための時間と費用、仕事で活用できる場、参加できる研修の条件を併せて考えることが、より現実的なリスキリングにつながります。
参考文献・出典
本稿の統計は公的機関の一次資料を参照しています。各資料の調査年と対象を確認してご利用ください。
- 厚生労働省(2026年7月31日公表)「令和7年度『能力開発基本調査』の結果を公表します」。2025年10〜12月に実施した企業・事業所・個人調査。公表ページと概要
- OECD (2021). Creating Responsive Adult Learning Opportunities in Japan, Chapter 5, 'Making adult learning more inclusive'. OECD原文
- OECD (2025). Trends in Adult Learning: New Data from the 2023 Survey of Adult Skills. OECD Publishing. DOI / 成人学習の障壁に関する第3章
統計の解釈について: 厚労省の対象は常用労働者30人以上の企業・事業所および対象事業所に属する労働者です。個人調査の対象20,127人、有効回答率43.9%。個人調査の自己啓発・OFF-JTと、事業所調査のOJT・キャリア相談は分母が異なります。OECDの国際比較は調査年・対象年齢・学習活動の定義が国内調査と異なるため、値を直接比較しません。