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「学び直しは本人の努力が大切」という言葉はよく聞きます。けれども、仕事で使う技能を育てる機会を、どれだけ会社が設けているかという視点も欠かせません。

労働政策研究・研修機構(JILPT)の2025年11月公表の企業調査によると、2023年度にOFF-JTを実施した企業は31.6%、従業員の自己啓発を支援した企業は29.2%でした[1]。企業規模による差も大きく、従業員9人以下の企業のOFF-JT実施率16.2%に対して、300人以上の企業では76.1%です。

これは企業が研修を実施した割合であり、何%の労働者が研修を受けたかではありません。 企業を分母にした調査と労働者を分母にした調査を区別することで、学び直しの環境がどう作られているのかを考えられます。

結論:学習機会は勤務先の規模によって差がある

JILPT調査は規模が大きい企業ほどOFF-JT実施率、自己啓発支援率が高い傾向を報告しています[1]。この関係から「企業規模が研修の有無を一意に決める」と因果関係を断定することはできません。業種、事業内容、従業員構成などを考慮する必要があります。

会社の学習支援を点検する

職場に必要なのは、研修の実施? 自学自習を支える仕組み?

01業務に必要な研修

担当業務と不足技能を確かめ、時間と実践機会を組み込む。

02本人が選ぶ学習

費用補助、時間の確保、学習成果の共有先を考える。

どちらか一方ではなく、業務の性質に合う方法を選ぶ。

数字を図で比較する

下の比較図は公的機関が公開した数値を基に編集部が作成しました。対象と分母を確認して読み取ってください。

企業規模別の研修実施・学習支援(企業調査)
9人以下300人以上

OFF-JTを実施した企業

9人以下16.2%
300人以上76.1%

自己啓発を支援した企業

9人以下20.8%
300人以上61.1%

出典:JILPT 調査シリーズNo.257(2025年公表、2023年度の実績)

調査に回答した企業を分母とする割合です。従業員の受講率ではありません。企業規模との関連であって、規模が唯一の原因と示すものではありません。

企業規模別のOFF-JT実施率は16.2〜76.1%

2025年11月公表のJILPT調査シリーズNo.257は、従業員5人以上の企業2万社を対象に、2024年10月15日〜11月8日に郵送で調査し、有効回答は6,116社、回収率30.6%でした[1]。教育訓練については主に2023年度の実績を尋ねています。

企業の従業員規模OFF-JTを実施した企業自己啓発を支援した企業
9人以下16.2%20.8%
10〜29人30.4%27.5%
30〜99人45.2%37.8%
100〜299人60.5%46.1%
300人以上76.1%61.1%
全体31.6%29.2%

出典:JILPT調査シリーズNo.257(2025年公表)[1]。上記は企業調査の回答割合であり、労働者一人ひとりの受講率や支援受給率を示しません。

小規模企業で実施割合が低いことは、研修にアクセスしにくい人がいる可能性を考える手がかりです。しかし、企業内での実地指導や外部での自学自習がすべてOFF-JTに含まれるわけではありません。「OFF-JT未実施=技能がまったく育っていない」という意味にはなりません。

学ぶ内容の決め方も、企業側の影響が大きい

同調査では、能力開発方針を「企業主体で決定している」または「企業主体に近い」と答えた企業は合計64.4%でした。一方、「労働者個人主体」または「個人主体に近い」は33.3%です[1]。

企業主体が多いという結果は、教育訓練が個人の自己責任に委ねられているわけではないことを示します。ただし「企業主体だから効果が高い」「個人主体だから効果が低い」という結論はこの調査からは導けません。

研修で扱う技能と、本人が伸ばしたい技能が異なる場合

職場では短期の業務課題への対応が優先される一方、本人は将来の職種転換や基礎技能の習得を考えているかもしれません。どちらも合理的な場合があります。

例えば、営業部門が報告業務の自動化を必要としているとき、会社は表計算と業務フローの研修を考え、本人はより幅広いデータ分析を学びたいと考えるかもしれません。研修計画の中に共通部分を探すことが一案です。

厚労省の能力開発基本調査と数字が違う理由

厚生労働省の令和7年度能力開発基本調査(2026年7月31日公表)では、OFF-JT費用や自己啓発支援費用を支出した企業は54.4%でした[2]。

JILPTのOFF-JT実施率31.6%と厚労省の教育訓練費用支出率54.4%は、同じ指標ではありません。費用支出には自己啓発支援も含まれ、調査対象企業の範囲、調査時点、質問項目も異なります。この二つの割合の差を増減や「矛盾」と考えるのは不適切です。

またJILPT調査は従業員5人以上の企業を対象とし、厚労省調査は原則として常用労働者30人以上の企業・事業所が対象です。従業員規模が異なる集団を比較する場合は、とくに注意が必要です。

企業の実施率と、労働者の受講率は別の指標

企業調査No.257のOFF-JT実施率は、従業員9人以下16.2%、300人以上76.1%でした。差は59.9ポイントです。自己啓発の支援率は20.8%と61.1%で、差は40.3ポイント。いずれも企業を分母にした回答です[1]。この数値を「大企業の従業員76.1%が研修を受けた」と読み替えてはいけません。

たとえば従業員12人の職場では、全員を同時に研修へ送り出せないこともあるでしょう。これは調査で直接観測された原因ではなく、編集部の仮想ケースです。短時間の交代受講、業務に近い演習などの選択肢を検討できますが、特定の実施方法に効果があるとこの調査が実証したわけではありません。

労働者側から見たOFF-JT受講率では、同じテーマを労働者個人の回答で検討しています。

企業が学習機会を設計するときの3つの問い

ここからは公的調査を材料にした編集部の提案であり、介入の有効性を測定した研究結果ではありません。

研修機会を設計する3段階
  1. 01業務課題を定義

    研修が必要な作業と到達基準を明確にする。

  2. 02学べる条件を準備

    時間・費用・研修対象・教材を確認する。

  3. 03仕事で試す

    小さな成果物を共有し、改善点を記録する。

JILPTの企業調査を参考にしたLEARN SHIFT編集部の提案。

問い1:必要な技能を測る課題があるか

「AI研修を受ける」という目標だけで終わらせず、「自社規程を踏まえて事実と推測を分けて要約する」など、研修後に確認できる作業を決めます。業務に関わる情報を外部AIへ渡す場合は、社内規程と機密保持に注意が必要です。

問い2:対象者が参加できる条件を作っているか

雇用形態・勤務時間・拠点によって参加しづらい人がいないか確認します。参加資格だけでなく、所定時間内の研修枠や代替教材の有無も見直す余地があります。

問い3:研修後の実践機会はあるか

実際の仕事で使う場がなければ、知識を学んでも業務改善へつながりにくいことがあります。BaldwinとFord(1988)は研修転移の条件を整理しました[3]。その古典研究から現在の日本企業における効果量をそのまま推定することはできませんが、職場環境を見るための概念として参考になります。

個人で学び直す場合の次の一歩

勤務先の制度を確認し、支援を受けられる技能と自分で学ぶ技能を整理してみましょう。自学自習から始める場合も、すぐに有料講座を申し込む必要はありません。まずは公開教材で課題を一つ試し、体系的な演習や評価が必要になってから講座を比較する方法があります。

中小企業で働く人のOFF-JT受講率では、企業ではなく労働者を分母とした別のJILPT調査を読み解いています。

教育訓練休暇制度の導入実態では、学習時間を確保する制度について考えます。

まとめ:研修は個人の努力だけの問題ではない

JILPTの企業調査からは、従業員規模によってOFF-JTと自己啓発支援の実施状況に大きな差があることが読み取れます[1]。一方、厚労省の別調査と集計条件が違うため、一つの指標にまとめて比較することはできません。

仕事で使える技能を増やすには、本人の関心に加えて、企業が学習時間と実践機会をどう提供するかを考える必要があります。

参考文献・出典

以下の資料は調査対象と分母が異なります。本文の実践案は編集部の提案であり、出典調査そのものが効果を実証したものではありません。

  1. JILPT(2025年11月19日)調査シリーズNo.257「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)」。原典
  2. 厚生労働省(2026年7月31日)令和7年度「能力開発基本調査」。原典
  3. Baldwin, T. T., & Ford, J. K. (1988). Transfer of training: A review and directions for future research. Personnel Psychology, 41(1), 63–105. DOI